観光ボランティアガイド 駿府ウエイブ

静岡浅間神社の平成令和の大改修、北回廊修理現場と楼門の解説付き見学会に参加しました。

静岡市文化財特別公開の企画の一つ、静岡浅間神社で現在修理中の北回廊の現場と12月1日に改修を終えたばかりの楼門の見学会が、12月4日と5日、4回に渡って行われました。

 

北回廊では各自ヘルメットをかぶり、工事を取り仕切る文化財建造物保存技術協会の施工会社の担当者の案内で足場を上り、漆が塗りたての現場で説明を聞きました。塗り直しの刷毛目が残って、鏡のように輝いています。下からシュッシュという作業の音が聞こえてきました。かがんでみると、古い漆膜を掻おとした後に、新たな漆を塗り直し、それを研いでいる作業中でした。漆は空気中の水分と反応することで硬化し、固まることで強靭な塗膜を形成します。その塗膜を砥石などで研ぎ表面を平滑に整える、まさにその音でした。その塗っては研ぐ作業を幾度も繰り返し、鏡のように仕上がるそうです。その工程は30回を超えるとか。

 

 

 

 

次に、3年の歳月をかけ、12月1日にお化粧直しが完成したばかりの楼門を、神社の神職の方に解説していただきながら見学しました。また、翌々日に設けられた、駿府ウエイブ会員対象の宇佐美権禰宜による説明会の内容も一緒に紹介します。

 

 

1816年に建立された楼門は、三間一戸の禅宗様、つまり寺院建築の様式で、放射状に垂木を置く扇垂木も特徴的で、神仏習合の時代の造りです。入母屋造で、屋根は瓦の形を真似た銅板で葺かれている本瓦形銅板板葺です。屋根の状態は良かったため、部分的な補修にとどめ、古い材料を保存しているそうです。工事費は4億1千万円、漆使用量は952㎏で、この漆の量は日本国内の1年間の産出量に匹敵するそうです。2015年に文化庁が、国宝や重要文化財の修復には国産漆を使うよう通達し、漆不足が懸念されています。静岡市では漆を地産地消しようと、オクシズ「漆の里」が2年前に発足し、10から15年後の採取を目指し、漆を植える協議会ができました。同時に漆掻き、漆塗りなどの職人の育成も目指しているそうです。

今回、楼門の漆の掻き落としに1年もかかり、予定より工事期間が延びてしまいました。

 

楼門の見どころのひとつ、立川流の彫刻は総数111もあります。その一つ「獅子」は木鼻に32、格狭間に8あり、下地に金箔が見えます。本体の木に漆を塗り、金箔を貼った上に岩絵の具で彩色をするという、生彩色(いけざいしき)という最上級の工法で、姿かたちは一つ一つ違うそうです。境内には本殿に生彩色の彫刻があります。

 

獅子の上には金色の「力神(りきじん)」が乗り、柱の上端をつなぐ頭貫(かしらぬき)を背に載せ、楼門を支える様子が後ろ側から見るとわかります。

 

 

 

金箔(10.5㎝四方)は全部で約22,000枚使用、その内彫刻用に15,000枚、「水呑の龍」に使われたのはその内1,000枚です。

 

 

初層上部に見える「虎の子渡し」は、胡粉の上に岩絵の具などで仕上げる平彩色(ひらざいしき)で、2匹の虎の子が1匹の豹の子に食べられないよう親が一匹ずつ対岸に運ぶ方法に苦慮するという故事が題材の彫刻で、4か所見ることができます。白目が青みがかっているのが豹(ひょう)だそうです。

 

 

 

 

 

他に、麒麟、鳳凰などが楼門内部にあり、随身(ずいじん)を初め、獅子、力神とそれぞれ右と左で阿吽(あうん)の対になっているそうです。蟇股には狛犬の起源とされる霊獣の獬豸(かいち)がいる、「唐松に獬豸」があります。そして各所に猪の目がなんと780もあるそうです。

 

 

 

 

 

 

 

改修でお化粧直しされた楼門では、今まで気が付かなかった装飾を色々発見することができました。扇垂木のすぐ下には菊の花の籠彫りが26あり、それぞれ違うそうです。屋根の軒先を支える部材の桔木(はねぎ)をとめる金具の存在や、支輪(しりん)という屋根のすぐ下の軒の部分材など、聞きなれない語句が沢山ありました。会員の間では、境内のそれぞれの社殿の屋根の棟部分にある丸環が話題になりました。それこそ双眼鏡でもないと見えない上部でしたが、点検の際などに命綱を取り付けるためと聞き納得しました。

 

 

 

 

 

 

塗られた漆は日の光によって光沢を失っていきます。今後、南回廊、大拝殿、本殿、舞殿と続きます。八千戈神社、麓山神社と工事が終わるのは、あと約13年の予定ですが、延びる可能性もあります。よみがえったもの、色あせたもの、それぞれ一日ずつ変化が見られます。それらが共存している静岡浅間神社の平成令和の大改修、その過程と完成を見ることのできる貴重な体験ができるのは今です。